地方創生パートナーズ株式会社

これからの官民連携と民間投資の 活用について

静岡県知事 鈴木康友氏

はじめに 本稿は、2026年2月18日に地方創生パートナーズ株式会社取締役会にて行われた、静岡県知事・鈴木康友氏の講演内容をもとに、事務局の責任において再構成した講演録である。なお、固有名詞・数値等は原則として講演時点の発言に基づく。

 本稿の構成

1. 行政を取り巻く現実と官民連携の必然 

2. 官民連携の実例:空港・上下水道コンセッション

3. 民間投資を呼び込む:県立中央図書館と公園整備

4. 産業政策

5. 先端技術の導入・イノベーション

6. 社会課題の解決

7. 地域外交:インドとの連携が開く市場

結び 官民連携が「標準」になる時代へ

1.行政を取り巻く現実と官民連携の必然

 鈴木知事は、就任から2年が経とうとするいま、県政の現状を率直に語る。行政だけでは立ち行かなくなりつつある局面で、民間との連携により公共サービスの質を保ち、さらには官の領域を新たなビジネス機会へ転換していく必要があるという。 背景にあるのは、厳しい財政制約だ。知事は市長時代に県の財政を目の当たりにし、ここ数年、毎年500億円を超える歳入不足が続いている現状に危機感を抱いたという。資金繰りのため、やむを得ず「資金手当債」(赤字補填のための借入れ)を発行し、その累積は約1,300億円に達する。このままでは持続しない——その認識が、財政再建と行政改革の出発点になった。人口減少が進むなかで、道路・上下水道・公共施設といったインフラを行政単独で維持することは、今後いっそう難しくなる。だからこそ、民間の資金とノウハウを取り込み、地域の持続可能性を確保していく——知事は官民連携をその中核に据える。 

2.官民連携の実例:空港・上下水道コンセッション

 官民連携の代表的な手法として、知事はPFI(Private Finance Initiative)を挙げる。公共施設の整備・運営に民間の資金や創意工夫を取り込み、低コストで質の高いサービスを実現する考え方だ。近年はBT(Build Transfer)、BTO(Build Transfer Operation)、そして公共施設等運営権を民間に委ねる「コンセッション」など、枠組みも多様化している。

 ①空港コンセッション:富士山静岡空港

 富士山静岡空港は、2019年4月からコンセッション方式を導入した。施設の所有は県が担い、運営権を民間に譲渡することで、民間の知恵とアイデアを空港運営に反映させている。空港は付帯収益も含めて高収益を見込みやすく、コンセッションと相性が良い分野だとして、全国でも導入が広がっている。

② 上下水道コンセッション:浜松市の挑戦

 一方で、上下水道分野は収益構造の違いなどから、これまで民間参入が進みにくいとされてきた。浜松市は合併により広域のインフラを引き継ぎ、下水道だけでも管理委託が3,000kmを超える規模になっていた。そこで同市は、上下水道にコンセッションを導入する方針を固め、2018年に日本初の下水道コンセッション事業を開始した。 この方式では、施設の所有権は自治体が保持したまま、運営権を民間事業者に譲渡する。民間側は利用料金収入を前提に、更新・修繕や経営改善を進め、自治体は運営権対価を受け取る。行政側はモニタリングを徹底し、課題の把握と是正を行うほか、料金設定についても運営権者と協議しながら進める。

 知事は成果として、自治体が直営を続けた場合に比べ、600億円超の運営コストが見込まれたところ、民間提案により86億円の削減が実現した点を挙げる。さらに、その一部として25億円が運営権対価として浜松市に支払われ、20年間にわたり年1億2,500万円ずつ継続的に得られる設計となった。民間側も黒字を確保しており、行政と民間がウィンウィンの関係になっているという。

 運営はSPC(特別目的会社)方式で、ヴェオリア・ジェネッツ株式会社(仏ヴェオリア系上下水道運営)を中心に、JFEエンジニアリング株式会社、オリックス株式会社、東急建設株式会社、地元の須山建設株式会社が参画し、浜松ウォーターシンフォニー株式会社が担っている。外資が関与することへの懸念も示されたが、知事は「運営ノウハウの蓄積」を重視し、実務面での合理性を説く。

 下水道で成果を上げた後、上水道にも同様の手法を広げようとしたが、当時は強い反対運動が起き、計画はいったん棚上げになった。「民間に任せると水質が不安だ」「外資に水を売り渡す」といった論点が前面に出たからだ。もっとも近年は、宮城県などで上下水道コンセッションが進むにつれ、反対の声も相対的に弱まってきたという。

 海外事例として知事は、パリで水道事業が「公社化」された際の実態に触れる。政権交代の象徴として公営化が掲げられた一方、現場の運営には従来の民間大手の人材が継続的に関与していたという。制度の看板だけで運営が突然切り替わるわけではない。だからこそ日本でも、先入観ではなく、実務と成果を見据えて民間活用を進めるべきだ——知事はそう強調する。

3.民間投資を呼び込む:県立中央図書館と公園整備

① 新県立中央図書館:『単独整備』から『複合開発』へ

 静岡駅に隣接する東静岡地区には広い県有地がある。着任当初、県は約350億円を投じてここに図書館を建設する計画であったが、想定していた補助金が得られないことが分かり、計画はいったん白紙に戻された。そこで県は、ゼロベースでの見直しに舵を切る。

 隣接地では、静岡市が8,000人規模のアリーナ整備を進めている。県と市は再開発と一体でまちづくりを進める方針へ転換し、県の約2.43ヘクタールの土地に、ホテル、オフィス、分譲マンション、商業施設などの複合施設を民間投資で整備し、その中に図書館機能を組み込む構想を描く。等価交換や定期借地権などの手法も視野に入れ、当初案の10分の1以下の費用での実現を見込む。

② 遠州灘海浜公園(篠原地区):スポーツ施設を『面』で稼働させる

 遠州灘海浜公園(篠原地区)には以前から野球場建設の構想があり、知事が浜松市長だった頃には、県に対して毎年のように要望を重ねてきたという。東部・中部には県営球場がある一方、西部には県営施設が少なく、地域バランスの観点でも必要性を感じていた。

 ただし、施設を単体で整備しても稼働率を高めるのは難しい。そこで知事は、競技場を核に商業施設やホテル、住居等を複合的に整備する「ボールパーク」型の発想を示した。浜松市はドーム型の多目的施設を望むものの、建設費は約500億円規模に上り、県の財政状況では現実的ではない。だからこそ、民間事業者との協議を重ね、民間投資が具体化すれば、県や市の負担を最小限に抑えつつ整備を進められる——それが現在の基本線だという。

4.産業政策

① 企業立地日本一:『土地がないなら、つくる』

 静岡県は2000年~2024年の累計工場立地件数で全国一位だが、近年はやや減少傾向にある。主因は用地不足だ。そこで県は、年間75件の企業立地を目標に掲げ、「土地がなければ造成する」という方針を明確にした。

 浜松市長時代、市街化区域はほぼ開発し尽くされ、工場誘致が難しかった。そこで三方原・都田地区に着目し、農地で市街化調整区域という制約を、国の特区制度で乗り越えた。高速道路インター周辺や主要バイパス沿いを「立地誘導地域」として認定してもらい、約50ヘクタールの工業団地を造成。販売開始と同時に完売し、現在では地域のものづくり拠点になっている。

 この経験を踏まえ、県内でも東名・新東名沿いのインター周辺など、好立地を市町と連携して特区制度等で規制緩和し、今後10年間で500ヘクタールの産業団地の整備を計画している。

② スタートアップ支援:VCと組む『ファンドサポート』

 知事は浜松市長時代から、スタートアップの育成・誘致に力を入れてきた。鍵になるのは資金調達である。資金が首都圏に集中しやすいなか、地方でも資金が回る仕組みとして導入したのが、ベンチャーキャピタル(VC)と連携する「ファンドサポート事業」だ。

 浜松市が認定したVCがスタートアップに投資すると、市がほぼ同額を交付金として上乗せする。VCにとっては投資リスクを抑えられ、スタートアップは資金を得やすい。行政側にも、首都圏など他地域からの誘致につながる効果があった。実際、約4年で24件の有望なスタートアップを主に首都圏から呼び込めたという。

 現在はこの仕組みを静岡県全体に広げ、「静岡県ファンドサポート事業」として実施している。県が最大4,000万円を投資する枠組みで、46社が認定VCとなり、SBIインベストメント株式会社(投資会社)、 レオス・キャピタルパートナーズ株式会社(投資会社)も含まれる。今年度は募集を終え、8社のスタートアップに交付を行い、資金面に加えて成長に向けた伴走支援も整えた。

③ 東部・伊豆へのスタートアップ誘致:温泉旅館を『働く場』に変える

 東部・伊豆地域では今年度から、スタートアップ誘致を新たに始めた。伊豆には2,000を超える温泉・ホテル・旅館が集まる一方、観光事業は厳しさを増している。そこで「観光振興」「交流人口の拡大」「スタートアップ誘致」を同時に実現する施策として、旅館の未活用スペースのリノベーションに着目した。

 宴会の機会が減り、広い宴会場が使われなくなった旅館は少なくない。こうした空きスペースをサテライトオフィスに転用し、起業家が滞在しながら働ける場をつくる。首都圏から約1時間で到着できるアクセスも強みで、起業家からは「採用にも効く」「週の半分は温泉やサウナを利用しながら仕事ができる」といった声が上がり、新しい働き方のモデルとして動き始めている。

④ 観光の基幹産業化:富裕層受入れと拠点づくり

 知事就任後、県は「静岡県未来創造会議」を立ち上げ、政策提言のエンジンとして位置づけた。座長にIGPIグループ(経営戦略コンサル)会長の冨山和彦氏、委員に東大大学院の松尾豊教授らを迎え、観光を静岡県の基幹産業として再定義する方針を打ち出す。焦点は、富裕層の受入れ環境整備だ。

 具体策として挙がったのが、ビジネスジェットと大型クルーザー(スーパーヨット)の受入れ拠点づくりである。富士山静岡空港は国内線の制約も抱えるなか、思い切ってビジネスジェットの集積地を目指すべきだという提言が出た。調査の結果、最大100機程度の駐機余地があることが分かり、段階的に集積を進めれば、首都圏・関西圏・中京圏からのアクセス面でも優位性が生まれる。羽田・成田が飽和するなか、受け皿になり得るという見立てだ。

 海の拠点としては下田が有望だとし、地元観光資源の活用を目指した拠点整備を進めている。陸路では不便でも、海から見れば要衝になり得る。富裕層は車や電車で移動しないという前提のもと、ヘリポート整備も視野に、下田を一大集積地とする構想を描く。受入れ環境が整えば、富裕層を確実に呼び込める——それが知事の見立てである。

⑤ 農業の振興:先端科学技術の活用・持続可能な稼げる農業

 静岡県はアグリオープンイノベーションプロジェクトを進め、その中核拠点がAOI-PARC(農業の産学官連携拠点)である。慶應義塾大学(情報科学)、県農林技術研究所(栽培技術)、理化学研究所(光技術)などが参画し、企業も巻き込みながらプラットフォームを築いてきた。すでに53件の事業化が実現しているという。

 いま力を入れるテーマの一つがアボカドの産地化だ。輸入依存が高い作物だが、温暖化の影響もあり国内栽培の可能性が広がっている。あわせて、オリーブを活用した地域づくりにも力を入れている。司法書士の西村やす子氏は2015年、農業の六次産業化による地方創生を目的に株式会社クレアファームを設立し、行政や企業を巻き込みながら、耕作放棄地や荒廃農地をオリーブ畑へ転換する取組を進めてきた。高品質なオリーブオイルの販売や農家レストランでの提供も手掛け、オリーブを軸に共創の輪が広がっているという。こうした取組には、地方創生パートナーズ株式会社のアドバイザーでもある新田信行氏(一般社団法人ちいきん会 代表理事)が助言役として関わっている。

5.先端技術の導入・イノベーション

① 次世代エアモビリティ(空飛ぶクルマ):観光の切り札へ

 先端技術の象徴として知事が挙げるのが、次世代エアモビリティ、いわゆる「空飛ぶクルマ」だ。静岡県は空飛ぶクルマや自動運転の先進県を目指し、導入ロードマップも策定している。 県内では、スタートアップの株式会社スカイドライブ(空飛ぶクルマ開発)とスズキ株式会社が連携し、スズキの製造技術を生かした機体製造が進む。世界から415機のプレオーダーが集まり、磐田市の工場で製造しているという。量産が進めば、1機あたり約1,000万円での購入も視野に入る。

 初期の活用は観光が中心になる見込みで、富士山周遊などインバウンド富裕層向けの旅行商品が充実していく可能性がある。すでに御殿場プレミアム・アウトレットには正式な離発着場が整備され、国の認可も取得済みだという。一方で課題もある。従来の航空機を前提とした高さ規制など、垂直離着陸が特徴の空飛ぶクルマにはミスマッチな規制が適用されている点だ。知事は国に対し、空飛ぶクルマ専用ルールの整備を要請し、ビルや立体駐車場の屋上活用を含めた環境づくりを進めている。 

② 自動運転:ルールベースからAI自己学習へ

 世界の自動運転は、想定シナリオを人が書き込むルールベースが主流で、センサー整備を含めてコスト負担が大きく、運行可能なエリアも限定されやすい。知事は、停電で車両が一斉停止した海外事例を挙げ、こうした構造的な弱点を指摘する。

 これに対し日産自動車株式会社は、AIの自己学習を軸にした自動運転技術を開発したという。知事自身、東京プリンスホテルから銀座周辺を約40分走行してホテルへ戻る実証実験に参加し、交差点や自転車などのリスクをAIが認識して安全に走る様子を体感した。反応速度は0.1秒以下で、人間より安全だという評価だ。さらに、仕組みの高度化により導入費用は40〜50万円程度に収まり得るとして、2027年の販売計画、そして国による法改正の動きにも言及した。

6.社会課題の解決

① 健康寿命の延伸とウェルネスプロジェクト

 厚生労働省が開催した第4回健康日本21(第三次)推進専門委員会において、2022年の都道府県別健康寿命で静岡県は男女ともに健康寿命日本一であった。延伸の要因は、市町や医療保険者、地域の事業所や関係団体等との連携による、地域全体での健康づくりの展開が図られた成果と考えられる。ウェルビーイング指標において、身体的幸福実感は重要な要素となる。県民の幸福度向上のため、市町や民間企業、医療機関等と連携してさらなる健康寿命の延伸に取り組んでいく。  

 あわせて、産業・ウェルネス産業の振興として、産学官金連携のもと、スタートアップの技術等を活用し、静岡発のフードテック・ウェルネス産業を創出する。県民の健康寿命の延伸と連携し、県民幸福度日本一の実現を目指している。

②ライドシェアの推進

 浜松市長時代、知事が直面した大きな課題の一つが交通だった。合併で市域が広がり、過疎地域も抱えるなか、路線バスの撤退が相次ぎ、住民の足が失われていった。 税金で走らせるバスは、利用者が少なければ維持できない。そこで導入したのが、住民同士が助け合う「共助型交通」である。

 ただし自家用車に他人を乗せ、対価を受け取る行為は「白タク」として規制される。完全無料は現実的ではない以上、せめてガソリン代程度を受け取れる仕組みが必要だ——知事はそう考え、全国の自治体首長と連携し、国への働きかけを進めた。やがて制度は「公共ライドシェア」として動き出し、いまでは民間企業の参入も進み、新たなビジネス領域にもなっている。普及のための全国組織(全国自治体ライドシェア連絡協議会)設立にも、知事は深く関与したという。

7.地域外交:インドとの連携が開く市場

 静岡県は地域外交の柱として、インドとの交流を強化している。2024年12月にはグジャラート州と友好協定を締結した。グジャラート州はモディ首相の出身地で、インドの中でも成長著しい地域だ。地元企業の主要工場も同州にあり、こうした産業基盤と人的ネットワークを活用できる点に、知事は大きな可能性を見る。

 交流は、スタートアップ誘致や高度人材の獲得にとどまらない。インドそのものが新たな市場として立ち上がっている。たとえば、「インドで自販機事業を展開したい」という相談があった際、知事は地元企業が有する海外ネットワークに着目し、現地工場の敷地内に設置することで管理面におけるリスクを低減する構想を示した。さらに、農業×テクノロジーを活用して社会課題解決型の事業を展開する株式会社エムスクエア・ラボ(農業スタートアップ、牧之原市)は、日本の生産技術を生かしてインドで事業展開を進めている。急成長する国との連携は、県内企業にとっても次の成長機会になり得るという。

結び 官民連携が「標準」になる時代へ

 財政制約、人口減少、インフラ老朽化——地方自治体を取り巻く環境は急速に厳しさを増している。そうした現実を直視したうえで、民間の資金・技術・運営力を取り込み、公共の価値を守りながら更新していくことが求められる。講演を通じて知事が繰り返したのは、官民連携は例外的な手段ではなく、これからの行政運営における「標準」になっていく、という見取り図だった。 (了)